夕暮れ時の幻想 毎日新聞社主催 第6回「小さな童話」大賞 第一次審査通過むぎわら ゆら

夕暮れ時、あとすこしでジュンと音をたてて、夕焼けが海に沈んでしまいそうでした。
海岸近くのちいさな公園で、かなこはベンチに腰をおろしてぼんやりしていました。
「つまらないな」
にぶく光る銀色の鍵をにぎりしめて、さっきから幾度つぶやいたのでしょうか。
家に帰っても、きっと誰もいないのです。
壁にかけられた時計の振り子の音、さみしくてスイッチをつけた時のからからに乾いたテレビの声。
かなこは、この夕暮時がきらいでした。

ふと、後ろの方から子供の笑い声が聞こえて、ふりかえりました。
「だるまさんがころんだ」
おおきなケヤキの木の下で、数人の子供達が遊んでいるのでした。
鬼がくるりとふりかえる瞬間、息をころしてじっとしていなければいけません。
ちいさな公園いっぱいに、楽しそうな笑い声が響きわたります。

「ねえ、わたしも仲間にいれて」
そう、かなこが言うと、子供達は顔を見あわせてうなづきました。
「最初は鬼をやってね」
一番ちいさな女の子が言ったので、かなこは木とむかいあわせに立ちました。

「だるまさんがころんだ」

ふわりと風がふくたびに、カサカサとかすかな音をたてて木の葉がゆれます。
夕焼け空は、いつのまにか暗やみににじむように溶けてなくなりました。
(今日はすごくすてきな日!)
そう思うと、かなこの胸はコトコトと踊りだしそうでした。

「だるまさんがころんだ」
「だるまさんがころんだ」
「だるまさんが、ころんだ」

けれど、どうしたことでしょう。ふりかえるたびに、凍りつきそうなつめたい風が、ためいきのようにかなこのほおに届きます。

ガラス玉みたいなつめたい目、月のあかりに反射するプラスチックみたいな白い顔、コトリとも動かない表情・・・。

「そんな・・・まさか・・・」
まるで、かなこの後ろだけ世界が違うようでした。

「だ、る、ま、さ、ん、が、こ、ろ、ん、だ」

かなこが、勇気をだして、もう一度ふりかえったときには、さっきとまるで変わりない子供達の姿がありました。
すましてポーズをとっている子、顔を赤くして笑うのをこらえている子、がまんできずに肩をふるわせている子。

(よかった・・・)
かなこは、ほっとため息をつきました。
頭のなかに残っているあの光景は、幻想だったのでしょうか。

「もう、遅いから帰ろ」
ひとりの男の子がそう言いました。
すると、他の子供達も、「帰ろ、帰ろ」と次々にうなづきました。
「お家、どこにあるの?」
かなこは、なんだかさみしくなって、そうたずねました。
すると、
「あそこ」
子供達はみんな、立ち並ぶ住宅街の向こう側にある五階建てのデパートを指さしました。
いつも、かなこが、おかあさんと買物をするしゃれたデパートです。

「毎日、コトリとも動かないで立っているのも楽じゃないよ」
「きれいな洋服が着られるのは、うれしいけどね」
「ほんと。たまにはこうやって遊ばないとね」
「楽じゃないよ」

「え、」
かなこは、どきりとして手のひらをにぎりしめました。
ざわざわっとおおきな音をたてて、ケヤキの葉がゆれると、月のあかりが、そのいくつものすきまからぼんやりと子供達の足もとを照らしました。

カタコトと音をならして、夜の闇に消えていった子供達は、ガラス玉の瞳のマネキン人形だったのでした。