部屋にある本棚

余白の愛/

2013年01月27日

余白の愛私が小川洋子さんの小説で感じるのは無機質さ。
本能を思い出させるような、食欲であったり、性欲であったり。
そういうものを排除したような、異質な清潔感みたいなもの。

『余白の愛』はそれ故の静けさが一番魅力的に書かれていると思う。
夫の浮気から始まった耳の病を持つ私と、美しい指を持った速記者Yの幻想的な交流。

特に印象に残ったのは、現実的な夫とのシーンだったりする。
病院に会いに来た夫のスケッチブックの「さよなら」という言葉とそれを読む私。
夫に前髪を切ってもらっている最中に、予告もなく彼の裏切りに気付くところ、
そして、病院の毛布にくるまって、私がチョコチップクッキーを
睡眠薬を噛むようにひたすら口にほうりこむ作業が悲しい。

それにしても、Yの名前が記されていなかっただけで、私は最後まで彼の顔を想像出来なかった。
これもけっこう不思議なことだ。
速記に使う紙の束に径がっている幻想の世界や記憶の場面の透明感が気に入った作品。