部屋にある本棚

溺レる/

2013年01月27日

溺レる女性に今人気がある作家のようで、少し前から興味を持っていた。
偏狭な読書傾向がある私にとって、
読んだことのない作家の本に踏み込むのは、案外といきおいがいる。
だから「えいや」っと手にとってみた第一作目。

この『溺レる』は、得体の知れない怖さがある。
恋愛小説なのに、怪談みたい(ファンの方ごめんなさい)。

暗く、道沿いにはなにもない、行けども行けども
細くも広くもならない道を男と歩いている場面から始まる『さやさや』。
「うまい蝦蛄(しゃこ)食いにいきましょう」と言われて、
二人でゆがいた蝦蛄をたらふく食べた帰り道だ。

だが、ここがどこなのか、この道がどこに続いているのかさえわからないのだ。
少し前を歩く男との距離の合間に、ときおり過去の記憶が交差する。

その暗い道のりは、どこか現実から浮遊しているかのよう。
たとえば、死に向かう道を垣間見てしまうような。

そんなふうに日常とはずれた、
あいまいな光景と時間をそろりとすくい取ったような短編が、
この本には8つ収められている。

恋愛のはじまりの話でも、道ならぬ恋の話でも男も女も揃いも揃ってカッコ悪い。
ゆるゆると輪郭が見えないだらしなさ。
なにをやっているんだろうと思いながら、引き返すこともせず、
どこに行き着くのかわからないと思いながら、どこまでも逃げている。
怖い怖いと言い合いながら、溺れている。

情熱というより、情念なのか。愛情というより、執着なのか。
そこで、ふと。この小説のなかの男と女だけではないのだ。
恋愛は時に怪談になりうるのではないか。

情景豊かな文章と無機質なカタカナ言葉の対比。
また、優しげだが掴みどころのない会話に惹きこまれる。
もう少しだけ読んでみようかな。