部屋にある本棚

もし僕らのことばがウィスキーであったなら/

2013年01月24日

「どのような旅にも、多かれ少なかれ、それぞれの中心テーマのようなものがある。」こんな書き出しで始まるこの旅のテーマは、ウィスキー。

村上さんの旅行記で私が最も好きなのは、三年に及ぶギリシャ、イタリア滞在記『遠い太鼓』(この本、個人的には文句なしだと思う、本当に)。以来、「村上春樹の書く旅の本」に魅せられ、『辺境・近境』、『雨天炎天』と続き、手にとるのは久しぶり。
もし僕らのことばがウィスキーであったなら?

もちろんこれほど苦労することはなかったはずだ。

スコットランドではシングル・モルト・ウィスキーと、その味を造る人々の暮らしぶりを。アイルランドでは、アイリッシュ・ウィスキーを楽しむべく立ち寄ったちいさな街やパブの様子を。
ことばがことばでしかない世の中で、人生のうちほんのひととき関わりあう人々のことばに耳をかたむける。

著者の位置付けも「小さな旅の本」とある通り、さらさらと短い時間で読みつくせるような造りである。

旅行記といったら、写真家として登場する妻陽子さん。村上夫妻がプライベートな旅行のテーマを少し変更し、陽子さんの撮った写真を眺めながら書き起こされた文章とあっては、何か特別な、親密な心持ちになってしまうではないか。

行った事もない遠い国で、時間と手間をかけ、愛情をそそぎ、その仕事に誇りを持って日常を暮らす、蒸溜所で働く人たちのことを思う。

著者のフィルターを通した、その土地への、その人々へのほどよい距離感と心地よい文章(村上さんにしてはめずらしくトラブルがなかった旅!)で、晴れた日の休日などにひとときの旅をしてみては。