部屋にある本棚

コンセント/

2013年01月27日

コンセント泥酔して目覚めた朝、女はラブホテルの床を這い回り、コンセントを探す。
ノートパソコンを立ち上げるためだ。
そして、ベッドサイドの電話のモジュラーを内蔵モデムに接続する。
その瞬間、繋がるのはもう隣に寝ている男ではないのだ。

この小説の冒頭の、短い一連の動作で、パソコン通信にはまっていたことのある私などは、あっという間に引き込まれてしまった。
電源とモジュラージャック。
繋がるために欠かせないもの。いったい何と?

思えば、あの頃、目には見えないがたくさんのものと繋がっていると思っていた。
そして、なぜか今よりずっと不安定だった。

引きこもりのすえ、夏の蒸し暑いアパートの一室で衰弱死した兄。
主人公ユキは、兄が伝えたかったことを探るべく、自分自身と向かい合う。
その道すじを心理学から追っているせいか興味深く読めた。
正直、途中のシャーマニズムの出現で困惑したとはいえ。

感応性が強く、入り込んでくるあらゆるもの、社会の揺れや他者の感情に感応してしまう。
その圧倒的な苦しさから逃れるためには、プラグを抜くしかないのだ。
この本では、そんな人たちをコンセントと呼ぶ。
引きこもりの原因のひとつとして、新しい可能性を示唆しているように思える。

ご存知の方は多いと思うけれど、この本の著者田口ランディさんは、ネットでコラムを書いていた人。
それを読んだ編集者に「長編小説を書いてみないか」と言われ、
半年後には実際に本が本屋さんに並んだそうです。
私は今までコラムしか読んだことがなかったのですが、
今頃これを読んで「なるほど」とあっさりと納得した次第です。

本当の戦争の話をしよう/

2013年01月27日

本当の戦争の話をしよう<本当の戦争の話というのは全然教訓的ではない。
それは人間の徳性を良い方向に導かないし、高めもしない。
かくあるべしという行動規範を示唆したりもしない。
また人がそれまでやってきた行いをやめさせたりするようなこともない。
もし教訓的に思える戦争の話があったら、それは信じないほうがいい。>

と本文中にあるけれど、この本は、戦争それ自体を語ってはいない。
言うならば、戦争という大きなものに組み込まれている人の心もよう、だろうか。
知的で愛情深く、同時に野蛮で残虐性を持つ人間の真のありよう。
だから、ヴェトナム戦時下が描かれてはいるが、他の戦争にもあてはめることができるのではないだろうか。

著者ティム・オブライエンは、かつてヴェトナム戦争に歩兵として従軍した。
その事実が根幹にあるフィクションである。
主人公は著者自身の名ティムとして生き、語っている。
淡々と、しかし圧倒的な真実味がある。
それは本当にあったことを書けば得られるものではないのだろう。

特に『レイニー河で』では、徴兵の知らせを受けたティム青年の深い悲しみと静かな憎しみに引き込まれた。
私にはすべてを理解することなど到底できないだろう。
それでも、戦争そのものが以前のような距離感を失ってしまった今、読んで良かったと思う。
たぶん、一年前に読むよりはずっと。

ピアニシモ/

2013年01月27日

ピアニシモロックバンド『エコーズ』のヴォーカリスト、辻 仁成さんが、音楽から小説の世界に転身したデビュー作。
同時にこれは、すばる文学賞受賞作。
正直言えば、どんな文章を書くのだろうという興味本位でこの本を手にした。
今や何冊もの著書を世に送り出している辻さんだが、歌を作ることと小説を書くこと、
これは相通ずるものがあるのだなと感じる。
そこにあるメッセージ性の強さ。伝えたいことを持っている人だ。

大人への成長の過程で立ち止まっている僕。
そして、僕が内に作り出したもう一人の味方「ヒカル」の存在、
伝言ダイヤルで知りあった一人の少女サキ。
水面下に潜む静かなる家庭の崩壊と、波長のずれたものはいけにえになる、
学校という「新型の全体主義」のなかで生きる僕の孤独と葛藤は、
まさにリアルタイムの現代を象徴するものではないだろうか。

暗く救いがないようにも思える世界を淡々とした視線で描きながらも、
そこに僕が生きようとする行き場のないエネルギーの力強さを感じられる。
特に、もう一人の自分、ヒカルとの決別のシーンは、言葉にならないメッセージが含まれているようで印象的でした。