部屋にある本棚

群青の夜の羽毛布/

2013年01月27日

群青の夜の羽毛布巧いなぁ。読みはじめから、にやりとしてしまう。
人の(特に女性の)心の奥底を、
時に意地悪なほど鋭くえぐりだしてしまう、作家・山本文緒さん。

他の作品も何冊か読んではいるけれど、きらりと印象深い短編に対して、
長編は、ストーリーの面白さが先行して、
するりと通り過ぎてしまうという感想を持っていた。

さて、冒頭から一気に惹きこまれてしまう、この『群青の夜の羽毛布』は、
家族という囲いのなかにがんじがらめに囚われた母と娘、女三人の物語。
悲劇的で、どこか滑稽で、血生臭い。

「女が結婚しないで済むためには」とこの母親は言う。
良い学校に入り、良い仕事に就くように。そう言い聞かされてきたさとるだが、
せっかく入った大学も中退し、今は家事手伝い。
家族とも他人とも関係をうまく持つことができない彼女。
その言動の随所に感じる決定的に病んでいる部分。

それは、冷徹な母親と妹みつるにも及ぶのだ。
それぞれが秘める憎しみと、暗黙のルールのもとで守ろうとしているものは何なのか。
次第に明らかになっていく家族の歪み。そして、思いもよらない真実…。

恋愛小説でありながら、家族小説でもあり、ホラーの要素もある。読後感は意外にも爽やか。
それにしても、家族という人間関係の成り立ち方は、本当にさまざまだ、と思ってしまう。
外からでは計り知れない習慣やルールや事情。
他人に映る異様さや滑稽さが、ごく内側では疑うこともなく真剣に取り行われているということだってあるのだから。

家族って、いったい何なのでしょうね?

はじめての夜 二度目の夜 最後の夜/

2013年01月27日

はじめての夜 二度目の夜 最後の夜同じムラカミでも龍さんの本は初めて。
ごく個人的で勝手な印象を言えば、春樹さんがポテトコロッケだとしたら、
龍さんはこってりとしたソースがかかったお肉だった。
どちらかというとハードな本が多いので「はじめての本」は敢えて恋愛物語にしてみた。

41歳になる作家ヤザキが、中学生時代の初恋の女性アオキミチコに再会するというストーリー。
タイトルも素敵だが、本の構成からとにかく洒落ている。
はじめての夜、二度目の夜、最後の夜をフレンチレストラン「エリタージュ」で二人は食事をする。
そのメニューがそれぞれの章のタイトルになっている。
たとえば、

9 パイヨンヌ産ハムとメロンの黒ゴショウ風味
73 フランス産 仔ウサギのリエット香草風味
139 ヤリイカのソテー ル・デュック風

という具合に。

重ねた年月のあいだに、容赦なく変わってしまうものと変わらないもの。
時間の残酷さを確認しつつ、懐かしく親密な気持ちを抱く。
そんな再会は、多かれ少なかれ誰もが経験したことがあるのではないだろうか。
もはや、持っているもの、築いてきたものを壊すほどの情熱はないけれど、
平凡な毎日からふわりと浮いたような非日常で、ただの男と女になる。

難しいだろうと思う食べ物、こと味わう描写に感心しつつ、
私は、彼女の背負っているもののぼかしが気にかかり、
それが読み終わるまで続いたことであまり心に残らなかったことが残念。

避暑地の猫/

2013年01月27日

避暑地の猫悪とはいったいなんだろう?とこの本を読みながら思った。
人の心の奥に棲む悪。
それは決して特別なものではなく、誰でも持ちうるもの。
ある日なにかを引き金に姿を現わすまで、その影には気づかない。
社会の秩序やそこで作り上げられた常識において存在するものではなく、
自分自身の持つ心のものさしでさまざまに変化しうるものなのかもしれない。

軽井沢の別荘の地下室で、その主人家族と屋敷番の家族の間で
静かに長年に渡り繰り広げられる背徳の行為。
人間の欲、男と女の欲。
宮本さんの少し距離を置いたような心地よい文章のせいなのか、
淫靡で恐ろしいなかにも、どこか魅かれてしまう性の妖しさ、美しさを感じました。

私は読んでいる間、無意識にずっと登場人物の言葉や行動のなかに
善を探そうとしていたことに後から気づきました。
善というより人間らしさ、といった方が良いのでしょうか。

が、最後の最後まで主人公「ぼく」の姉、美保のなかにそれを見ることはできなかった。
それが、ちょっと心残りでしたが、父親と「ぼく」との間に感じたもの、
貴子の存在と貴子に対する「ぼく」の恋心の「普通さ」に救われた感じです。

葛藤、虚無感、哀愁。
「ぼくが本当に生きるのは、自らの内部に存在する法による呵責が、
肉体と精神を溶かし腐らし始めたときなのだ」
という一節に深く込められているように思えます。

ふと、社会がゆるしても、社会的に罪を償っても、この世の全ての人がゆるしても、
自分自身がゆるさないという罪もあるのかもしれない、
といろいろ考えさせられ、なおかつ魅力的な小説でした。