部屋にある本棚

ばななブレイク/

2013年01月29日

ばななブレイク5年間に渡り雑誌に掲載されていたコラムを中心にまとめた、
吉本ばななさん初のコラム集。
大きなテーマとしては「ひきつけられる人々」「心をゆらす様々なできごと」があり、
特に前者は、読んでいると一人一人に対してのばななさんの真摯なまなざしと、
物事を考え抜く一生懸命さがずっしりとした重みで伝わってくるよう。

人には、たとえどれほどの才能に恵まれていようが、知名度があろうが、
受け入れられる部分とそうでない部分が当然あると思う。

道徳的にはみ出していると思われるもの、物を作り上げる側の相反する価値観にもスポットを当て、
その人をその人として、その物事をその物事として受け止める。
そこに広くあろうとする心と、人間そのものに対しての愛情、クールな好奇心を感じる。

なかでも「交わらない世界はたくさんあるんだ」という言葉が印象的だった。
取り上げられる顔触れはさすがにすごいが、ばななさんらしい豊かできりりとした文章で語られる随所に、
一般人の私が言葉にできず漠然と抱いていた印象がありありと形になって見え、
今更「うーん、作家ってすごい」などと感心してしまったりして。

他、海外に向けた仕事なども掲載されているが、エッセイは何冊か読んだことはあるものの、
小説以外ではこのコラム集が私には一番良かったように思う。

ブラック・ティー/

2013年01月29日

ブラック・ティーたぶん、どんな人でも「やってはいけないこと」というものがあると思う。
それは、単にその社会での常識や法律に照らし合わせたからだけではなく、
誰が見ていなくても、自分の心が裁いてしまうもの。

この本は、たとえば落とし穴にはまるように、
きっかけさえあれば誰でも起こしそうなちいさな罪を描いた短編集。
どちらかといえば、暗いテーマのそれぞれのお話。

ところが、読んでいると感じる一定の距離感(作者と主人公たち、主人公たちと私)が心地よく、
それだけに心の微妙な動きが静かに染みわたるよう。

表題の『ブラック・ティー』は、電車の網棚から置き引きして生活している、
かつて普通のOLだった女の子の話。
寝る間も惜しんで働いていた頃と同じ街の片隅で、彼女は今こう思う。
「常識さえ捨てれば、働かなくても暮らしていける方法があるのだ」と。

そこにいたる背景は驚くような特別なものではない。
けれど、書かれてはいないすき間から、ゆるされることを必ずしも望んではいない痛みが
見えてくる気がするのはなぜなんだろう。

網棚にわざと忘れられた、ブラック・ティーという名の高価なバラの花束。
男の人から誕生日に花束をもらえるような、普通の生活に戻ることは可能。
それでも、大勢の人のなかでまた生きること、花束を期待することが怖いと立ち止まっている弱さや歪みは、
まっすぐな物語よりも私には共感できた。

他、いじめられている姉を救おうとあやまちを犯した男の子の『誘拐犯』、
妻子ある恋人にしてしまった、ある復讐『夏風邪』など。
格好良く、綺麗には生きられない危うい現実を一歩引いた愛あるまなざしで描かれた作品たち。

最近、書店に行くとこの山本文緒さんの本をたくさん見かける。
それがなぜなのか、初めて読んだこの本でちょっとわかったように思う。

絶対泣かない/

2013年01月29日

絶対泣かない「絶対泣かない」なんてちょっと肩肘の張ったタイトル。
15編の短編が詰まったこの本を彩っているのは「働く女性たち」。
あとがきにもあったのだけど、読んでいると改めて、
世の中にはいろんな仕事があるのだなぁ」としみじみしてしまう。
よく聞く仕事、初めて聞く仕事。

たとえば、人より多く(思える)の職業に携わったとしても、
自分が経験したことのないその他の世界は、やはり未知なのだ。
時には、ちっぽけに思えて自信をなくしてしまいそうな自分の世界だって、たぶん誰かにとっては。
そんな当たり前のことに、はっとさせられる。

著者の山本さんの本に登場する多くの人物、特に女性の、
仕事を含めた人物スケッチのバリエーションの広さには感心してしまう。
もちろん、そのために多くの人の話を聞き、資料を得たりしているのだろうけれど、
なんというか、「ヒト」をみるのが好きな人なのかな、と思える。

日々一生懸命、時には「も~やってられない!」なんて爆発しつつ、
親や恋人、周りをとりまく人間関係、自分自身の心の葛藤とたたかう彼女たち。
格好よくはないし、頑張った先に答えやゴールがあるわけではない。
つまり結末はない。
あるのは昨日の続きの今日。そのあたりが逆にリアルで、なんだかよくわかる。
同じに思えたって、つまづき、確実に学んだ小さな一歩のことを、
少なくとも自分自身は知っているのだから。

絶対泣かない?
一人のときなら、心をゆるせる人と一緒なら、時には泣くことだって大事。
私はそんなふうに思うけど。